潮汐力を利用した軌道変更システム 〜実験結果篇〜


承前 潮汐力を利用した軌道変更システム - 真夜中は別の人


Wiredは偉いな。こんな地味な実験の続報を載せてくれるなんて。


さて、9月に紹介したYES2=「人工衛星ペイロードを「綱」で地球に戻す実験」が実際に行われ、結果が出たようです。良いニュースと悪いニュースがあります。まず悪いニュースから。

  • ペイロードは行方不明になり、回収はできなかった。そのため、ペイロード側の記録は失われている。
  • 本来なら、30km延ばすはずのテザー(引き綱)が、約8km延びたところでペイロードが切り離された。


次に良いニュース。

  • ペイロードが予定よりも早い速度で母機から離れたことを示唆するデータがある。その場合、テザーは予定通りの長さまで延伸した可能性がある。
  • 切り離しによって母機の軌道は1300mほど「跳ね上がった」。これは、実験のコンセプト自体は間違っていないことを示す。


というわけで、希望が残らなかったわけではありませんが、実験そのものは失敗とカウントせざるを得ないようです。まあ初めの一歩ですから。



回収予定だったペイロードがどうなったかを考えてみましょう。切り離されたタイミングが早かったことは間違いないようです。これによって、大気圏への突入コースが本来の計画から変わったことは間違いないでしょう。これによって、大気圏への突入角度が垂直に近づけば摩擦熱で燃え尽き、平行に近づけば跳ね返されてしまうでしょう。無事帰還の可能性は残念ながら低いと考えられます。


では、何故そんなことが起きたのか?もっともありそうなのは機械的な故障です。テザーを8km繰り出したところで、機械的な原因によってペイロードが切り離されてしまったという単純な話です。


あるいは、データが示唆するように予定よりも早い速度でテザーが繰り出され、予定通りの30kmを経過したところでタイミング以外は予定通りに切り離された可能性もあります。長さの比から見て、正常な速度の4倍弱の速度でテザーが繰り出されたと考えられます。低軌道での実験ですから、ごくわずかながら空気抵抗は存在しますし、その他なんらかの理由によりペイロードが母機に対して急速に減速したか、最初の切り離し時に余計な加速が加わったかというところでしょうか。


これによって、母機の軌道も予定外の変更となったのでしょうから、そういう意味ではリスキーなシステムなのかもしれません。



今回のWiredの記事では問題のテザーの写真が掲載されています。正直糸巻きにしか見えません。小さな写真なのにテザーの繊維が見分けられそうな感じですので、意外に小さいのかなという印象です。マルボロの箱でも置いてどのくらいの大きさか想像がつくようになっているとよいのですが。


今回は残念ながら失敗でしたが、プロジェクト名のYES2とは『Young Engineers Satellite 2』の略です。学生さん達の再挑戦に期待しましょう。


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