ビックサイトのエスカレーターの積載荷重について考えてみる


東京ビックサイトのエスカレーター事故の件で、いろいろ情報が飛び交っていてよくわからないので、整理してみることにした。テキストは毎日jpによる。記事の署名から見る限り、3人も投入しているようで、比較的詳しい情報が得られるからである。その分、矛盾のように見える部分もあるわけだが。


一つ目は、事故の翌日に出た記事である。ここでは、積載荷重に関する話が2回出てくる。

このエスカレーターは1ステップ当たりの荷重制限が130キロに設計されており、

明示されてはいないもののこれはメーカー(オーチス社)からの情報と見るべきだろう。これは一段あたり130kgまで持ち上げられる能力があるものとして設計されたと考えられる。

エスカレーターの製造元「日本オーチス・エレベータ」(中央区)によると、このエスカレーターはステップが84段あり、階段状になっているのは上下部分の3段ずつを除く78段だった。建築基準法上の安全基準の計算式は、1ステップあたりの荷重制限の130キロ×78段×0.74の7503キロで、これは2ステップに大人3人が乗る計算だという。、

こちらは建築基準法による法的に最低限満たさなければいけない積載荷重である。上記と比較するためにエスカレーターの一段当たりに直すと、130kg×0.74=96.2kg/段が法的に必要な積載荷重である。上記のようにこのエスカレーターが130kg/段で設計されていたとすれば、3割以上もの余裕を持っていたことになる。


さて、この96.2kgは正しいのか? この荷重を定めているのは、厳密には建築基準法施行規則である。

3  エスカレーターの踏段の積載荷重は、次の式によつて計算した数値以上としなければならない。    P=2,600A この式において、P及びAは、それぞれ次の数値を表すものとする。 P エスカレーターの積載荷重(単位 ニュートン) A エスカレーターの踏段面の水平投影面積(単位 平方メートル)

要するに2,600N/m2=265kgf/m2である。平米あたり265kg。一ステップの面積は102cm×40cm=0.41m2だったようだから、265×0.41=108kg/段ということになる。毎日新聞の提示した数字とは12kgほど違うし算定根拠も違うのだが、設置当時から基準が変わったのかもしれないし、基準となる面積が違うことも考えられる。いずれにせよ、130kg/段で設計されていれば、法的な基準はクリアしていることになる。



もう一つの記事は逆走を止められなかったブレーキの能力に関する記事である。

次に挙げるのは今回の逆走を止められなかったブレーキに関する記事である。 エスカレーターに乗っていた人の総重量が、荷重制限の約7.5トンだけでなく、逆走防止用のブレーキ能力の限界である約9.3トンも超えていた疑いの強いことが分かった。

このあたりから話が食い違いはじめる。「荷重制限の約7.5トン」とは先の96.2kg/段に78段をかけた総荷重のことである。それは法的な基準に過ぎず、設計荷重は130kg/段だったのではなかったのか? しかし、それはそれでブレーキの能力との兼ね合いで不思議なことになる。

ブレーキ能力の限界は1ステップ当たり120キロで、総重量では約9.3トン。

これだと、設計荷重>ブレーキの能力ということになってしまう。設計荷重ぎりぎりまで積むともはやブレーキでは止められないというわけだ。現実に起きたことに即してはいるが、そんな馬鹿な設計をするのか、と。



というわけで、オーチス社の説明が混乱したのか、毎日新聞が誤解したのか、説明しきれていないのか、私の読解力が無いかである。


モーターの能力としては130kg/段に耐えられるが、法的な基準値96.2kg/段で非常停止し、120kg/段のブレーキが耐える、という設計だったと考えるとありえるかなという気はする。そして何故か非常停止が作動せずモーターの限界まで積載したところで停止したためにブレーキが耐えられなかったとすると全体の筋も通らなくもない。ただし、これは私の憶測であり、缶ジュース一本賭けてもいいかな程度の本気度である。素人が十分な資料も無く推量できるのはこのレベルであり、現状報道されているのもこの程度の情報量しか無いというところが重要だ。




あとはおまけで。これはTVで放映された画像らしい。

事故のあったエスカレーターに何人乗っていたかを数えようとしたもののようだが、注目するのは事故の起きた上りではなくその横の下りである。係員が先導して50人ほどの客が続き、10段ほどか間を空けて次のグループが乗っていることが分かる。

同展示場は取材に「主催者側と約1カ月前から警備について打ち合わせし、その際にエスカレーターには2段に計3人程度しか乗せないよう伝えた」と言う。これに対し主催者側の会社は「そうした注意は聞いていないし、打ち合わせの記録にも載っていないはず」と説明。

ここでいう「2段に計3人程度しか乗せない」ような対策を下りでは採っていたように見えるわけだ。下りの場合、非常停止だけでも将棋倒しの恐れがあるので上りに比べてより慎重になるのは当然のことだが、裏を返せば全ての段に2人ずつ乗せると停止する可能性があるという認識が主催者側にもあったように思える。会場側からそうした注意があったことを主催者側は否定しているわけだが、このあたりはこじれそうな気がする。