「 超 光 速 通 信 装 置 」だって?!


昨夜配信されたこの記事↓


この驚くべき記事を実にあっさり配信するテクノバーンは流石というほかない。しかし、あっさり見過ごされるかというともちろんそんなことはなくて、一夜明けた現在はてなブックマークは150以上にのぼっている。いや、やっぱりニュースの大きさに比べたら圧倒的に少ないな。


テクノバーンの記事中で紹介されているソースは2004年に発表された以下の論文である。


たしかに「superluminal」だとか「faster than light」といった言葉はあるのだが、「ロスアラモス研究所」は出てこないし、何よりもテクノバーンの記事にある装置の写真が無い。どうやら、直接の元記事はロスアラモス研究所のHPにあるこのニュースリリースのようだ。


タイトルを直訳すると実に「超光速通信装置」である。直球すぎる。テクノバーンだけなら「誤訳の殿堂」と呟いて片付けることもできるが、相手はロスアラモス研究所なので真面目に読んでみる価値があるだろう。


というわけで、この記事を訳してみることにする。物理学も英語も素人なので、テクノバーン以上に誤訳の殿堂化するおそれもあるが、間違いに気がついた人は教えてください。



<ここから訳>


光よりも速い電波を送信することのできる装置が研究者によって開発された。アインシュタインは粒子と情報が光よりも速く運動することは不可能だと予言したが、電波の振る舞いについては別の話だとロスアラモス研究所のJohn Singletonは語る。偏光シンクロトロン(polarization synchrotron )は急速に回転する磁場を伴った電波を集束する。その結果はパルサー―超高密度で回転する中性子星の一種―が放出する強力な信号の原因を説明するものだ。この現象は多くの研究者を当惑させてきた。


Singletonによれば、基本的に偏光シンクロトロンは電波を強烈に酷使して、ついには光の速度を超えさせるものだという。同様にこれがパルサーで起こっていることだろうと。


「パルサーは高速で回転している中性子星で、間欠的に電波を放出しているが、分からないのは、これらのパルスが何故これほど明るく、何故これほどの距離を隔てて届くのかということだった。」Singletonは語る。「我々が考えたのは、これは我々の機械がしているのと同じように伝わっているのではないかということだ。」


その装置は、2mの長さのゆるやかにカーブしたアルミナ(誘電体)の上に規則的に並べられた電極によって構成されている。それぞれの電極に正弦波的に変動する電流(sinusodial voltage)を隣の電極の正弦波と位相がごくわずかずつ異なるように流すと、偏光のパターンが装置内を行き交うようことになる。この電流の周波数と位相のずれを注意深く調整することによって、光よりも速く伝わる波を作り出すことができると研究者達は言うのだ。しかしながら、いかなる物理的な実体も光速を超えて運動してはいない。


<ここまで訳>


元記事はこの後も続くが、それはこの発明が携帯電話や人工衛星との通信やコンピュータに革命を起こすだろうという予測で、いやそんなちっちゃなことどうでもいいからと言いたくなる内容なのでばっさり省略する。


訳してみたもののテクノバーンの記事からさして情報量が増えていない気がするが、とりあえずはここまで。少なくとも今回はテクノバーンがやらかしたわけでは無いらしいということは言えるだろう。あと、群速度の話でもないような気がする。むしろ量子もつれと根が近いのではないかと直感的に思うのだが…。


論文の方がもう少し原理的なことが書いてあるだろうが、概要しか読めないし、それでさえ自分の手には余るので、誰かそのうち解説してくれるのを待つことにする。なお、同じ研究チームによる別の論文が2008年に発表されているので、そちらもリンクしておく。