NHK受信料集金人の憂鬱

木曜のことだが、受信料関連のニュースが相次いでいた。

一つ目は、受信料支払い義務化の方針が政府・与党で合意されたことが正式に発表されたという記事で、2007年度に放送法改正、2008年度実施が当面の目標とのこと。一昨年のNHK不祥事の発覚以来、気がつけばすっかり既定路線になってしまった。官僚にとっての最高の危機管理とは焼け太りすることである。

二つ目は、個別訪問による受信料の集金現場の殺伐さ加減をほうふつとさせる記事。NHKにしろ、新聞にしろ、こういう事件ってもう少し日常的に起きているような気もするが、実際に目にするのは珍しい。

三つ目は、いや懐かしいですね。「NHK受信料拒否の論理」。本多勝一氏の名前が召還魔法として今でも強力だということがわかって、苦笑する。呪文を唱えているのがNHKの方というのも可笑しい。しかし、2ちゃんでもこのデマを見たことがあるのだが、ネタ元がNHKそのものとは思わなかった。

下二つはNHKの不祥事ネタではあるのだが、これまでの横領などの「NHK本社」の不祥事ではなく、集金現場での不祥事だという共通点がある。

個別訪問による受信料の徴収と受信契約の勧誘というのは、NHKの正規の職員ではなく、委託契約による「地域スタッフ」が行っている。全国で約5700人。待遇・条件などはここに詳しい。

NHKの決算を見ると、この戸別訪問にかかっている経費がおおよそ分かる。表にするとこんな感じになる。*1

年度 平成11年 平成12年 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年
受信料収入 6,211 6,313 6,414 6,487 6,528 6,551 6,478
契約収納費 611 624 633 641 644 639 640
9.8% 9.9% 9.9% 9.9% 9.9% 9.8% 9.9%

(単位:億円)

要するに受信料収入に対して契約収納費がほぼ10%かかっているわけだ。引き落としの手数料を銀行に払ったりしている分が含まれている可能性もあるが、ほぼ上述の「地域スタッフ」にかかる費用と見ていいだろう。彼らは新規契約も取りつけてはいるのだろうが、受信料収入の伸びから見るにここ数年はほぼ頭打ちであることも分かる。

売上の回収にかかるコストが売上自体の10%かかるという業態って、NHK以外にあるのだろうか?

というわけで、このコストはNHKにとっても圧縮したいものであるには違いない。受信料の支払いが義務化されれば取りっぱぐれが減るだけでなく、このコストの大幅な削減も可能になるわけで実においしい。しかし、そこには約5700人の雇用がある。正規の職員では無いが、組合もあるし、そもそも長年にわたって足で稼いでいてくれた人たちだ。整理するとなれば色々厄介な問題になるだろう…。いや、まさか既にその準備が始まっているとも思えないが。

【追記】*2

このPDFの103ページを見ると訪問集金と振込・引き落としの構成比が分かる。ここ2年は多少訪問集金の割合が上がって、契約総数ベースで17.6%とある。概算だが、6478億×17.6%=1140億であるから、1140億集金するために640億かかっていると見ることも出来る。平成13年に至っては847億に対して633億だ。営業効率という面ではちょっと絶望的な数字に見える。「受信料義務化すると、このコストの分だけで1割お安くできます。」なんてキャンペーンが可能だということである。

*1:はてな記法で右詰ってどうやるの?

*2:初めてコメントがついて、少なくとも誰か一人は見て下さっていることが証明されたので、もう少し調べてみた。