実名の臆病者

我らが歌田メソッドの本家本元最新エントリ大きな反響を呼んでいる。
2点ほど思うことを書きたい。なお、ご本家は既に歌田メソッド2.0に基づいて運営されているので、トラックバックもコメントも送ることはできない。ここで何を書こうとご本家の論旨の明晰さは確保されているので、安心である。

スラッシュドット2ちゃんねるの匿名性について、歌田氏は次のように書いておられる。

 アメリカの有名なコンピュータ・オタクの掲示板「スラッシュドット」は、匿名で発言するには「Anonymous Coward(匿名の臆病者)」という呼称を受け入れなければならない。それに対して2ちゃんねるのスレッドでは、「名無しさん」として当たり前のように同じ名前で書きこめる。

実は、これは単に名称から受ける印象の問題でしかない。
スラッシュドットには、登録ユーザであるIDと非登録ユーザとして使用する名義である「Anonymous Coward(以下AC)」がある。IDは要するにハンドルであって実名を要求されるものでは無い。実際に本家Slashdotの記事を見れば分かることだが、実名を使っているらしき人はほとんどいない。メールアドレスさえあれば同一人物が複数のIDを取得することも可能であり、これは規約的に禁止されていることでもない。IDを持つ者が一時的にACとして発言することも容易だ。投稿時にチェックボックス一つでACとして投稿できる気安さである。またACは文字通りに無名性を保っていて、文体や内容以外の方法では全く区別できない。
2ちゃんねるはどうか。2ちゃんねるには登録ユーザという概念は無いが、トリップを使用することで固定ハンドルという状態を作ることができる。板によって違うが、2ちゃんねるの投稿にはFQDNIPアドレスIPアドレスを暗号化したIDなどが表示されるので、同じ「名無し」であってもそれぞれを区別することは可能であることが多い。名前欄に一時的にハンドルを書きこむこともできる。レス番を名前欄に使うこともよくある。厳密に言えば一意性は無いが、けっこうその場の用は足りる。Winnyの製作者が「47氏」として事実上固有名詞化していたのが典型である。
どちらがいい悪いというわけではない。そして、どちらも匿名であることに変わりは無いが、追跡可能性という意味でも柔軟な使い勝手という意味でも2ちゃんねるの方がわずかだが優れているということだ。
「匿名の臆病者」という用語はセンセーショナルであり、確かに歌田氏の論旨を補強する役割を果たしている。しかし、そもそも掲示板とブログでは書かれている内容の性格も違うから、匿名性にもまた違った影響を与えるはずである。それを用語のインパクトのみに頼って、しかも実態を考慮しないで持ち出せば、かえって論旨の明晰さを欠くこととなるだろう。おや、印象操作ですか?などと思われては不本意というものだ。


ところで何故、歌田氏は歌田メソッド2.0が「炎上」に対して高い耐障害性を持っていることを指摘し、広く普及に努めないのであろうか。奥ゆかしすぎはしないだろうか。

ブログの「炎上」というのは、要するにコメント欄やトラックバックに自らの論旨に沿わない意見があふれることである。コメント欄とトラックバックを閉鎖してしまえば、事実上炎上しないのだ。炎上しなければ、仕事にさしつかえるなどといった心配も無い。実名か匿名かといった問題は瑣末なものにできるのである。歌田メソッド2.0はこの点で極めて強力であり、まさにそれを実践しているブログであるのに何故それを読者に薦めないのであろう。不言実行ということなのだろうか。
【追記】1:08 タイトルを変更した。