はじまりの日(2)
ここ数年、Appleが大きな新製品を発表する時は、即日販売開始であることが多い。遅くても翌週であり、発売まで1か月以上かかることはまず無い。当然、事前の広告展開などは行われない。だからこそ、Appleは新製品の発表に力を入れる。発表まで開発・生産・流通の全ての段階で徹底した機密保持が行われ、情報をリークする者は訴訟を起こされることを覚悟する必要がある。発表の一週間以上前に報道関係に思わせぶりな招待状を送り*1、スティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーションを収録した動画を即日世界中に配信する。
だが、ここまでする企業は今のところAppleくらいである。電化製品で、新製品の発表から発売まで一か月ほど間が空くことは決して珍しくない。それにしても2か月以上というのは、やはり長い。結果的に発売されたWalkmanAとCONNECT Playerの完成度を考えると、あの時点で発表してしまったこと自体がむしろ不可解と言ってもいい。
交換式メディアを使わないiPod式のプレーヤとしては、WalkmanAはSONYにとって5世代目にあたっていた。5世代全ての発表と発売の時期を表にするとこうなる。
機種名 | 発表日 | 発売日 | 発表→発売 | 発売→次世代発売 |
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NW-HD1 | 2004/07/01 | 2004/07/10 | 9日 | 92日 |
NW-HD2 | 2004/09/29 | 2004/10/10 | 11日 | 61日 |
NW-HD3 | 2004/11/30 | 2004/12/10 | 10日 | 132日 |
NW-HD5 | 2005/04/06 | 2005/04/21 | 15日 | 212日 |
NW-A | 2005/09/08 | 2005/11/19 | 72日 | - |
これを見ると、WalkmanA(NW-A)以前の世代では、発表から発売まで10日前後しか間がないことにまず気づく。過去の例から言えば、WalkmanAの発表はやはり2か月早かったと考えてもよい。
このことは製品サイクルにも影響を及ぼしている。WalkmanAの直前の世代であるNW-HD5が「最新機種」であった時期は約7か月だが、そのうち日数にしてほぼ3分の1の期間にわたって、既に次機種が発表された状態、いわばレイムダック化していたのだ。型落ちが見えている商品は、当然買い控えや値崩れの圧力にさらされる*2。しかしNW-HD5の世代、特にメモリースティックタイプのNW-Eシリーズは、それまでの4世代の中では最もヒットしたものだったのだ。
ヒットしている商品を犠牲にしてまで、無理に発表を急いだのはなんのためだったか?
それは広告戦略のためだったと言う説がある。この2か月間を使って、存分に広報を行うためだったと。だが、実際にWalkmanAのTVCMが開始されたのは9月の末日だった。おまけに私はこれを見た記憶が全く無い。WalkmanAのTVCMは2パターン製作されたのだが、発売前後に放映されたものは何度となく見ている。10月のCM放映はかなり限られたものではなかったか?*3WalkmanAの広告戦略については別稿に譲るが、そのための発表時期だったというのはうなずき難いものがある。
では、何故?
(この項つづく)