そこにあるもの(3)
SONYはウォークマン戦略の建て直しのために社内に新しいカンパニーである「コネクトカンパニー」を設立する。設立は11月の初め、外部への発表は暮れもおしつまった12月27日だった。本社直轄の新カンパニーであり、翌年9月の機構改革でSONYのカンパニー制が事業部制へと変更された際もそのまま残された。管掌するのは、音楽配信事業とそのための機器であり、当然ウォークマン関連の部門やDRM関連の部門も傘下に移るとされた。注目すべきは、担当取締役としてハワード・ストリンガー氏と木村敬治氏の二人が就任したことであろう。前者はエンターテイメント部門とアメリカ地域の責任者であり、後者はモバイル機器全般の責任者だった。
年が変わって2005年の3月7日、出井CEO/安藤社長をトップとする経営陣が退陣し、ストリンガーCEO/中鉢社長を据えた新しい経営体制が発表され、6月22日の株主総会によって正式に承認・始動した。
コネクトカンパニー発足後初の製品は「NW-HD5」を初めとする第4世代のシリーズだった。だが、所属の開発担当者のインタビューが掲載された程度で、この時はさほどコネクトカンパニーが前面に出たという印象は無い。前体制から引き継いだ製品を完成させたためではないかと思われるが、よくわからない。やはり辻野コ・プレジデント自ら発表会に臨んだWalkmanAシリーズが、コネクトカンパニーの実質的なデビューと見ていいだろう。
秋に発表されたWalkmanAシリーズは主に以下の製品群からなっていた。
- 20GBHD搭載の「NW-A3000」
- 6GBHD搭載の「NW-A1000」
- 512MB〜2GBのメモリータイプの「NW-A60x」各種
また、これまでのSonicStageに替わるソフトとして「CONNECT Player」が開発中であることが発表された。*1
製品の写真を見て分かるのは、メモリータイプの物のデザインが前世代と基本的に変更が無く、ハードディスクタイプの物のデザインが一新されたことである。メタリック塗装に透明のアクリルを被せるという意味では、メモリータイプにデザインを合わせたと考えてよいだろう。デザインを見る限り、確かにこれまでの4世代とは全く違う印象を持つ。また製品ラインアップとしては明らかにiPod miniと同じ路線を狙った「A1000」の投入が大きいだろう。
各タイプのサイズ・値段を比較したものは以下の通りである。
機種 | 容量(GB) | サイズ(mm) | 重さ(g) | 電池(h) | 価格 |
---|---|---|---|---|---|
iPod 5G | 60 | 61.8×103.5×14 | 157 | 20 | 46,800 |
NW-HD5 | 20 | 59.9×89.3×14.5 | 135 | 40 | 35,000 |
iPod 5G | 30 | 61.8×103.5×11 | 136 | 14 | 34,800 |
A3000 | 20 | 65.2×104.2×21.4 | 182 | 35 | 35,000 |
iPod mini | 6 | 50.8×91.4×12.7 | 103 | 18 | 27,800 |
A1000 | 6 | 55.0×88.1×18.7 | 109 | 20 | 30,000 |
iPod nano | 4 | 40×90×6.9 | 42 | 14 | 27,800 |
iPod nano | 2 | 40×90×6.9 | 42 | 14 | 21,800 |
A608 | 2 | 29.1×84.9×16.1 | 48 | 50 | 32,000 |
A607 | 1 | 29.1×84.9×16.1 | 48 | 50 | 27,000 |
まずハードディスクタイプを見よう。フラッグシップである大容量タイプでは、ついにiPodが小型化してNW-HD5とほぼ同サイズになったことが分かるであろう。前面投影面積は変更せずにより薄くすることに成功したのである。これに対してA3000は2回り大きくなったと言ってもよい。iPodが薄くなったのに対して、こちらは厚みが異様に増している。結果として重量は増し、これは初代のiPodにほぼ匹敵するものである。
SONY製品といえば多くの人は小型・軽量をイメージするであろう。事実、NW-HD5まではその通りの商品だった。それがiPodに追いつかれるだけでなく、何故か自らその座を放棄してしまったのである。
A1000はminiと比べる限りは、ほぼ同サイズと言ってよいだろう。だが、不幸なことにminiに替わってnanoが発売されたために比較にならないほどの差がついてしまった。
メモリタイプで注目すべきは価格である。A608は4GBのnanoに対して容量が半分であるのに値段は15%も高い。同容量のものと比較すれば、実に1.5倍である。4GBのnanoと同価格帯と言えるのはA607だが、容量は4分の1になってしまう。大量の需要が見込めるためにフラッシュメモリの仕入値を安くすることに成功したnanoの値段が異常と言ってもよかったが、そうした事情は消費者には関係の無いことである。
結果的にiPodシリーズに対する優位性は電池駆動時間のみとなってしまった。しかし、これにも不思議なことがある。A3000とA1000に関する限り、発表時の資料には電池駆動時間の記載が無かったのだ。さらにこれだけ重量が増したにも関わらず、NW-HD5よりも駆動時間が減っている。A1000はminiと大して変わらず、これもSONY製品らしくはない。ハードウェア的な大きな変更点といえば、ディスプレイが液晶から有機ELに変わったことだが、有機ELはもともと消費電力が少ないことが特長である。
一新されたデザインもまた賛否両論と言ってよかった。批判の一つは「ウォークマンらしくない」というものであり、これは大きくデザインを変えた以上やむをえないものであったかもしれない。携帯電話をイメージしたとされたボタンにも旧態依然という批判があっただけでなく、その配置から操作性を懸念する声が上がった。もう一つは特徴的な光沢を持つ外観だったが、これはカタログの写真と発表会での実機の写真のどちらを重視するかによって大きく割れた。
ともあれ、WalkmanAシリーズはそれまでのものと一線を画し、新しく生まれ変わったという印象を与えたことは確かである。しかし、その陰で自らの良い面をいくつか失ったものでもあったのだ。
(この項終わり)
【追記】一部加筆修正した。
><
*1:ソフト・機能についてはここでは割愛する。