FACTAのスクープ

ここでも再三取り上げているFACTAが、みずほ証券東証ジェイコム株誤発注問題で損害賠償を求めている件についてスクープした。

まず時系列を整理すると以下のようになる。

  1. 8/21 15:10 予告スクープ――メルマガで22日朝発信
  2. 8/22 06:00 メルマガ配信
  3. 8/22 午後 東証西室社長の定例会見
  4. 8/22〜23 各紙各局の報道
  5. 8/23 06:00 勝利宣言――予告スクープを各紙追っかけ

単純にこれだけを見ると会見にわずか数時間先んじたスクープに見える。が、そうではない。

配布資料(会見の一問一答は22日午後10時現在未公開)によれば、事前にみずほ問題はテーマにあがっていなかった。

とある。8/22定例会見事前配布資料(PDF)を見る限り確かにない。8/22西室社長記者会見要旨(PDF)でも、「それでは、まずお手元の資料にはございませんけれども」と断ってこの損害賠償に言及している。

東証は18日にみずほ証からの催告書を受領。催告書が求めた支払期限は9月15日で、「支払いがなければ法的措置を検討せざるを得ないと記載されている」(同)という。

東証みずほ証券から催告書を受け取ったのは18日であり、時間的に配布資料に載せることができなかったとは考えづらい。ということは、このFACTAの報道が無ければ少なくとも22日の会見では話題に上らなかったと想定できる。

社長記者会見のページによれば、この定例会見は毎月末近くに行われているようだから、次回の定例会見の時には支払い期限を過ぎた状態になっているだろう。東証みずほ証券への支払いに応じる意思が無いことから考えて、この報道が無ければ、9/15の支払い期限を過ぎてみずほ証券が訴訟を提起するまでは表に出なかった可能性が高い。もちろんこの間に他紙他局が抜く可能性もあったわけだが、単純な成り行きと比較すれば約1カ月は先行した報道と言えるだろう。速報性という意味では“スクープ”としての価値は十分あったと思う。

東証には、市場の透明性のために上場企業に率先して重要情報の開示を求めるという立場がある。そこからすれば、スクープに押されての発表というのは本来ならそれだけで非難を受ける可能性はある。不謹慎な言い方をすれば、22日の定例会見後にこのスクープが出ていた方が面白かった気もする。それをしなかったのはあるいは武士の情けか。


また、FACTAの報道内容はこれだけではなく、

日本の資本市場の総本山に大穴があく事態に、西室社長は愕然としたという。「東証プロパー」組の飛山専務、長友英資常務が、みずほとの損失分担交渉の途中経過の詳細と危機的状態を西室社長に故意に報告していなかったからだ。

として、東証の西室社長がOBを含む東証プロパーによって棚上げされている状況をも伝えている。この件について会見で触れた個所は以下。

記 者 2点ほどお願いします。
一つ目は、みずほ証券の件ですけれども、西室社長は、この協議の中で、11回だとして、全部出ているのか、あるいは、ある部下に任せて、しばらくは把握してなかったとか、西室社長の関わり方としては、今回の事件は前面に立って交渉をやられていたのでしょうか。

西 室 交渉と称するものがあった都度、私自身は報告はちゃんと受けております。それから、私が直接、この件だけを主題にしてお会いしたのは、最後の1回だけということです。

記 者 第1回から平行線といいますか、お互いの主張がかみ合っていないということでの報告は受けていたのでしょうか。

西 室 主張の話でかみ合っていないというよりは、なぜこんな質問が出るのでしょうかという、お互いに質問事項そのものがかみ合っていないみたいな話から、ずっと時が過ぎていったというふうに私は報告をもらっています。

なんというか、突っ込みが甘いと感じる。もちろんこれを会見で西室社長があっさり認めるとも思えない。裏打ちするにせよ否定するにせよ、この件は今のところ他紙他局は後追いしていないようだ。この内容が事実であれば、これは速報性とは別のニュースバリューという意味でやはり“スクープ”としての価値は十分あるように思う。


FACTAの阿部編集長は鳥越編集長へのインタビューの中でこう述べている。

阿部 僕が雑誌を創刊したのは、なによりもまずニュース、つまりスクープを売る雑誌をつくりたいということでした。

既に村上ファンドの出資者リストなど他のスクープもある。有言実行と言っていいだろう。ごくわずかな時間差を競うスクープ合戦に意味があるとは思わないが、公式発表の横流しに陥らないために「すっぱ抜き」を行うという意味でのスクープは、やはり報道にとって必要だと思う。


そしてFACTAは、購読者限定のメールマガジンによってスクープを先行配信するなど、インターネットと紙メディアの連携をし、それを購読への動機付けにつなげるところまでは実現できている。実際に拡販につながるのかはまだ分からないが。この面での解説はガ島通信で触れられている。

個人的に興味深いのは、そのネットの使い方が全然Web2.0的では無いと言うことだ。ブログはともかく、メールマガジンなんてWeb1.0以前である。結局、問題はツールではないのだと改めて思う。それは阿部編集長のこの言葉に表れているのだろう。

最後はメディアの本質は、どういうコンテンツをつくるのかの問題だと思います。

そして、改めてこの言葉について考える。スクープが報道の全てではもちろんないにせよ、Podcastとか以前にこの問いに対してどのような答えがあるのだろうかと。

スクープは内部告発を除けば、プロフェッショナルな記者でないと取れない。「オーマイニュース」のように、ライターを市民から募ったら、内部告発以外にどうやってスクープを取るのでしょうか。そこが不思議でなりません。

このシンポジウムにその答えはあるだろうか。