そらで計算する

まずは地球から始めよう。地球の赤道の長さは4万kmである。厳密に言うと40,075kmなのだが、4万kmといって差し支えない。その場合の誤差は0.2%しかないのだ。

これは偶然ではない。メートル法を最初に決めたのはフランス人だが、1メートルの長さを決める時に地球の赤道周長を4万kmとするということにしたのである。その後観測精度が上がったりしてごくわずかな誤差が出た。今の1メートルの定義は真空中の光の速さを基準としている。


次は光だ。地球の赤道を光が廻ると1秒間に7周半する。半端?いいえ。4万×7.5=30万。すなわち真空中を光が1秒間に進む距離は30万kmである。または3億mである。厳密に言うと299,792,458mなのだが、30万kmといって差し支えない。その場合の誤差は実に0.07%である。

これは全くの偶然である。この30万kmを1光秒と呼ぶ。


続いて地球と太陽のことを考えよう。太陽の光が地球に届くまでには平均として8分19秒を要する。半端?とんでもない。秒に直すと499秒である。もちろん500秒といって差し支えない。その場合の誤差は0.2%である。

地球と太陽の間の距離は500光秒あるわけだ。kmに換算すれば1億5千万km。mに換算すれば1500億mである。位取りさえ間違わなければ暗算で答えられる。厳密に言うと149,597,870,660mなのだが、もちろん1億5千万kmといって差し支えない。ここまで来ても誤差はわずか0.3%である。

これも全くの偶然である。この距離を1天文単位と呼ぶ。あるいは1AU


天文単位(AU)は太陽系の大きさを把握するにはちょうどいい単位である。各惑星の太陽からの平均距離を並べれば、水星は約0.4AU、金星は約0.7AU、火星は約1.5AU、木星は約5AU、土星は約10AU、天王星は約20AU、海王星は約30AUとなる。海王星など厳密に言っても30.06896AUなので古典的な太陽系の大きさは半径30AUだと言いきっても差し支えないのである。

もちろんそれぞれを500倍すれば、簡単に光秒に直すことができる。例えば太陽から木星までは約2,500光秒だとすぐに分かるだろう。地球と木星の間の距離は近い時で2,000光秒、遠い時で3,000光秒だとすぐに見当がつく。通信をしたとすると片道30分から50分くらいかかるわけだ。往復では1〜2時間。メールや掲示板なら耐えられるが、電話やチャットには向かないだろうと想像は広がる。


偶然の積み重ねとは言え、これほど直感的に把握しやすく、しかもほぼ正確な換算がすぐにできるのに、天文単位が使われているのを見る機会は少ない。何故かって?フィート・マイルなどという中途半端な単位系にこだわっている国がこの星の覇権を握っているからである。1光秒をマイルに直すと186,282マイル1AUは92,955,887マイルだそうだ。ざくっと20万マイルまたは1億マイルといった日には誤差は7%もあるのだ。使えん。