ブクマ・カルマ・モデレーション


「せっかくだから」と自分の中の最も貧乏性な部分が囁くので。


ネットイナゴ」問題と言ってしまってよいのか、はてなブックマークにおける罵詈雑言に対してなんらかの対策―システム的なものソーシャルなものを問わず―を検討とのこと。


というわけで、既存のシステム的な対処法についてまとめてみることにします。細かいおさらいはこちら。いや、なつかしいですね。


あっさりまとめてしまうと、ユーザー行動に対する評価を行うシステムということになるのですが、それには今のところ以下の3種類があるようです。

  1. 記事に対する評価ーDiggはてなブックマークのようなSBM
  2. コメントに対する評価ースラッシュドットなどにおけるモデレーション
  3. ユーザーに対する評価ーDigg・Pliggやスラッシュドットにおけるカルマ


この3つそれぞれについて、現状を考えてみましょう。


記事に対する評価ーDiggはてなブックマークのようなSBM


Diggnewsingのトップページを見ると分かるのは、投票によるポイントに対してコメントの数が相当少ないということです。newsingは特に顕著で投票によって453ポイントも集めるほど注目されていながら、コメントはわずか2つといった例もあります。またコメントも短いものです。基本的に投票行為が主でコメントは従ということが言えるでしょう。はてなブックマークも同様ですが、この二つに比べるとコメントが多い傾向があるようです。


次に投票それ自体についてですが、Diggの場合は「digg it」か「bury」のどちらかになります。これは「bury=埋める」といった語感から、価値判断というよりは、注目度を上げる|下げるといった意味合いだと考えるべきでしょう。これに対してnewsingは「○」か「×」かという二元的な評価軸を持っています。はてなブックマークの場合、ブックマークすること自体には価値判断は含まれませんが、タグ機能が単なる分類の目安というだけでなく、「これはひどい」といったタグによって多種多様な評価方法になっているのはご存知の通りです。


匿名性についてですが、Diggnewsingの場合、誰が投票したのかを知ることは不可能であるか、非常に面倒です。はてなブックマークの場合は、少なくともユーザーIDのレベルでは(プライベートモードを除けば)容易に知ることができます。


コメントに対する評価ースラッシュドットなどにおけるモデレーション


スラッシュドットにおいては、登録ユーザーの中から持ち回りで選抜されたモデレーターが権限を与えられてコメントに対する正負のポイントを与える評価を行います。マイナスの評価はそのコメントを見るのに手間がかかることにつながり、プラスの評価はそのコメントが目立つように表示されることにつながります。


スラッシュドットモデレーションがあまり機能していない」といった声が時折聞かれますが、個人的には少なくともマイナス評価については機能しているように思えます。すなわち荒らしコメントをとりあえず見えなくしてしまうという役には立っているのではないかと。プラス評価についてはたしかにあまり効果が見えないという気はします。しかし、これはアメリカの本家Slashdotに比べると相当コメントが少ないために、良質なコメントを目立たせるメリットもあまりないという側面があります。これはモデレーターが選抜制のため、モデレーションポイントの総量が不足していることが原因の一つでしょう。これでも以前よりは増えたようで、最近は+5ポイントのコメントが多少は目立つようになりました。


Diggでは、コメントに対しても「digg it」することができますが、これにはGoodとNo goodの区別があります。立てた親指を上下に向けたボタンによって表現されています。そのコメントに対する賛成|反対を示すと考えればいいでしょうか。モデレーターになるための条件は特に無いようなので、-10ポイントなどというブーイングをくらっているものも見受けられます。その代わり、コメントの横にポイントが示されるだけで、表示上優遇されたり、冷遇されたりといったことは無いようです。


ていうか、なに、オースン・スコット・カード監修で「エンダーのゲーム」をゲーム化だって!あ、いや、すみません。話題がそれました。


これらのどれにしても誰がどのようなモデレーションを行ったかについては公開されないようです。つまりモデレーション自体はほぼ完全に匿名ということです。

ユーザーに対する評価ーDigg・Pliggやスラッシュドットにおけるカルマ


「カルマ」というのはいろいろ誤解を受けるというか、分かりにくい用語ですが、これは最初に使用したスラッシュドットの用語を伝統的に受け継いでいると考えればよいでしょう。登録ユーザーに対する評価値であり、これの上下によって、ユーザーに対して多少の利益|不利益が与えられます。


スラッシュドットの場合、評価値が高い人の中からモデレーターが選ばれます。評価値が低い場合は投稿するコメントのポイントの初期値が低いということになります。


Diggの場合は、同一IPから複数のアカウントを使って「digg it」するといったスパム的な行動を排除するために使われているようです。


Pliggの場合は、投票時に与えるポイントがこの評価値によって上下します。同じ一票の重みが上下するわけです。また、評価値によってユーザーがランキング表示されるなど、Diggよりはかなりシステム的に重視されています。


この評価の計算は上記のモデレーションによる得点などから自動的に計算されますが、その計算式は必ずしも公になっているわけではありません。Pliggであればソースコードを参照することができますが、個々の運用時にはそれが変更されている可能性があるので、やはりブラックボックス的な性格は残ります。


はてなブックマークにおける「ネットイナゴ」対策


個々のブックマークに対しては、モデレーション機能を付加することが考えられるでしょう。この場合はモデレーター権限をどの程度開放するかがキーになると思われます。はてなユーザーの一部に制限する場合は、別途ユーザー評価値の導入などが必要になるでしょう。はてなユーザーの全てに開放する場合は、はてなのアカウントを取らないと意思表明できないことが、非難される可能性があります。全ての閲覧者に開放する場合には、機械的な攻撃・工作にさらされるリスクがあります。


ブックマークによって不快な思いをしている人にとってはどうでしょうか。


低いモデレーションを受けたブックマークの表示を冷遇することによって、それを目にする機会が減り、結果的に不快な思いをする機会が減ることは考えられるでしょう。あるいは、自分に対して批判的なブックマークに対して反対票が多いということが分かって慰めになるかもしれません。


しかし、これは逆に作用する可能性もあります。不快なコメントが高い評価を受けるのを見る羽目になっては不快さも倍増するでしょう。そもそも「ネットイナゴ」といった状態にさらされている場合、自分にとって不快な意見を表明する人が多くなっている状況なのがほとんどなので、モデレーションによって溜飲を下げられるといった期待は空しいものになると思われます。



ユーザー評価値についてはどうでしょうか。これはある程度モデレーション等の蓄積をもって決定されるものですから、相当に悪質なユーザーを排除する役にたつ可能性はあります。ただし、そこまで悪質なユーザーは数で言えば少数でしょう。また別のアカウントを新規に取得することでロンダリングされた場合には効力を発揮しません。身元証明を厳しくすればある程度は防ぐことはできますが。


どちらにしても排除できるのは少数ですから、「ネットイナゴ」現象のように「数」を相手にしている場合には、あまり効果は望めないのではないかと思われます。


あるいはユーザー評価値をしきい値として、ブックマークを表示する|しないといった処理が考えられます。しかし、罵詈雑言ならともかく、自分に対する誹謗や中傷は自分の目に触れなければよいというものでもありません。



というわけで、現状のシステム的な評価方法は「ネットイナゴ」対策には悲観的な考察となってしまいました。もちろんこれ以外の手法が考案される可能性はありますし、運用によって解決できるかもしれません。


ちなみに


念のため、この問題の契機の一つになったと思われる池田信夫氏は以下のエントリにおいて、上記のような機能の実装をはてなに求めているわけではなく、運営者による対処を効率化することを求めておられるようだということを申し添えます。

はてなの場合には、ブックマークや日記で名誉を傷つけられた人からの苦情を受け付ける窓口を設け(*)、それを本人に通告するとともにサイトで公開し、トラブルが一定の限度を超える場合には除名すればよい。


しかし、例えば以下のような場面において池田氏がどのような対処を求めていらっしゃるのか、というのは私にはよく分かりません。


まさか池田氏のご意見に反対されているブックマーカーを片っ端からはてなに苦情として通告されるとも思えませんし、池田氏が「悪質」と見なされるのが例えばどれに当たるのかというのは、興味のあるところです。


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