番外編・組織が腐るということ


揶揄のようなエントリを書いた後で言うのもなんだが、ここ最近のSonyは、業績だけでなく組織として復調してきたのではないかと希望的に見ている。



あの悲惨な結果に終わったWalkman Aシリーズは、そのまま2年近くモデルチェンジされず、それはどちらかというと“放置”されていた観があった。しかし、最近ようやく新モデルが発表され、iPod nanoのクラスを埋めるSシリーズが追加、HDタイプのAシリーズはワンセグ対応ということでiPodとの差別化が図られている。少なくとも旧シリーズよりはずいぶん魅力的な物に見える。


相変わらず発表から発売まで妙に間延びしているようだが、今回安心なのは「iPodキラー」と言った煽り文句が聞こえてこないことである。おかげで今回の新製品は大きな話題になっていないようだが、前回のような“悪い”話題になるくらいなら、これでいいのだ。



あの頃のSonyのことを見聞きしていてどうしても気になったのは、トップに近い人たちの暴走としか思えない大言壮語だった。それを裏打ちするものがあればよいのだが、無いということを今は亡きConnect Playerが端的に示すことになった。


拡張ECMAScriptの処理系そのものを一から作るというのは、野心的なアイディアではあるが、結果的には全く実にならなかった。Connect Playerという“製品”は、驚くべき勢いでメモリを喰い、恐ろしいほど速度が出ず、山のような不具合を出して、結局は一度は捨てたSonicStageに救われる羽目とあいなった。


皮肉なことは、その後発表されたiPhone/iPod TouchがWebベースのアプリケーションを多用していて、ECMAScriptという目の付け所自体はそう悪くもなかったことを実証している点だ。とはいえ、もちろんAppleは、それで何もかもできるとは考えておらず、基幹にはMacOSXを置き、長年開発してきたSafariを乗せ、あくまでもその上での簡易な実行環境としての扱いである。iTunesのようなデスクトップアプリケーションには採用せず、昔で言うならDAとも言うべきDashboardレベルでしかない。


世界最強のソフトウェアハウスの一つであるAppleにしてこれである。研究開発して、時期尚早ということでお蔵に入れておけばよかったものを製品化して、結果として顧客にひどい不便を強いた。市場に出せば何が起きるか誰も想像していなかったはずはない。捨てられていたSonicStageが再登場して急場を救ったスピードを見れば、誰かが「これはまずい」と思って準備をしていたことが分かる。


だが、Connect Playerは実際に市場に出た。「これはまずい」と分かっていても止められなかったということだ。



少し遅れてPS3の開発と商品化が行われた。Walkman Aシリーズの経緯を見ていた者としては、眩暈がするほどの“同じことの繰り返し”がそこにはあった。


トップが大言壮語し、ライバル商品を貶め、煽る。しかし製品は結局それを実現できない。


最近発表されたPS3の“廉価版”からPS2の互換機能が取り除かれた。困難なソフトウェアによるエミュレーションへの投資をやめ、PS3独自の魅力を発揮するために注力したい、というのが表向きの理由であり、それ自体に嘘はあるまいと思う。


しかし、前任のトップはそんなことを言ってはいなかった。100%の互換性を保つことは前提にしか過ぎず、ライバルであるMicrosoftXBOXにはそんなことはできないだろうと貶めた。


実際にPS2互換機能の最大の障害となったのは、PS2で使われているGPUのメモリ帯域だったようだ。これはソフトウェアエミュレーションでどうにかなるという部分ではない。だからこそ、最初期型のPS3では部品的にはPS2そのものを内蔵するという形をとって、ようやく100%に近い互換性を確保せざるを得なかった。次の型ではPS2のCPUにあたるチップを外して、GPUにあたるチップはまだ残していたが、愕然と互換性は落ちた。そして、今回そのGPUも外して、諦めましたとなったわけだ。


Connect Playerと同じである。ソフトウェアエミュレーションではどうにもならない部分があるということを誰かが気づいていなかったはずはない。だが、トップの言うことを止めることはできず、ただでも厳しいコスト・値段的に血を流してでも製品化してしまった。「これはまずい」と分かっていても止められなかった。


トップが更迭されて、ようやく路線をまともな方向に向けることができるようになった。どうしようもできないことは切り捨てるしかないと正しく判断できるようになったということだ。


Walkmanはそこから立ち直るまでに2年かかったのだろう。PS3がどれだけかかるかは分からないが、その第一歩が今回の発表だったのだろう。Walkmanよりは早いと考えていいかもしれない。



どうして今さらこんなことを書いたかというと、昨夜のタイトルマッチの件で、ああTBSの組織は今、腐っているのだなと感じたからだ。去年の一件から、むしろ悪化している。TBSの中に「これはまずい」と感じている人がいないはずはない。セコンドの暴言をマイクが拾っていたのは偶然ではないかもしれない。


だが、TBSは今はまだそれを止められない。Sonyは、思ったように製品が売れないという現実があって、ようやくトップが更迭され立ち直る側に進めるようになった。TBSにそういう機会はあるのだろうか。


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