なつかしの湯川さん


あ、湯川さんだ。なつかしい。「市民ジャーナリズム」への興味を失い、次は広告業界だとおっしゃっていたが、なるほどこういう記事を書いておられるのですね。なんというタイミング。つい先日、実に4年ぶりに携帯の機種変更したところですよ。しかもau。もう一週間早ければ参考にできたのに。どれどれ、ふむふむ。



うーん。えーと。なんというか。ひどいな、これ。今さらFlashなWebページ批判なのか?



記事は大きく前段と後段に分かれている。前段の出だしはこう。

「ブランド」という言葉の定義も難しいのだけれど、まあ信頼感みたいなものだと考えていいと思う。「このブランドの商品なら安心だから」ということで詳細が不明でも購入につながる。


まあ、その一般論ですな。で、その「ブランド」構築のために広告という手段があり、それを伝える媒体としてマスメディアがあり、それは対多数ながら一方方向で、そこにインターネットが登場、双方向性を生かして擬似的にせよ1対1なコミュニケーションを取ることができるようになったのに、Flash主体の見栄えの良さだけに囚われたWebページ作りはTVCM的な旧態依然たるものではないか、とのご主旨。


すごい。これ、何年前の議論だ?



Flashというのは、大元をたどれば懐かしのMacromedia Directorの末裔である。Directorというソフトは、さらに懐かしのHyperCardの拡張版みたいなソフトだった。ユーザーが絵を描いて、そこにいろいろ仕掛けをする。クリックするとページが変わったり、パラパラマンガ式なアニメーションが動いたり。その元々の着想はHyperTextの実装であり、それをインターネットに実装したものがHTML、つまりWWWである。


要するにインターネットの「双方向性」というものを実現するためのツールの中でも割に由緒正しい進化の裔なのだ。


実際に、Flashは派手なインターフェースが自在に組めるという理由で多用されてきた。最近、FlashだけでできているWebページはたしかに減ったが、それはCSSJavaScriptが馬鹿みたいに発達したおかげで、Flashを使わなくても十分にいろいろなことができるようになったという面がまずある。


元々Flashにはいくつかの弱点があって、それは、データ容量が大きい、検索効率が悪い、ユニバーサルデザインに対応できない、といったものだ。容量の問題は今時は大したことはないが、残りの二つは解決できていないか、CSS+JavaScriptの方が圧倒的に低コストである。というわけで、Flashだけで構築されたページというのは減ったが、バナー広告やヘッドラインなどではがんがん使われている。要するにページそのものから、パーツの一つとしての使われ方に変わったわけだ。



しかし、依然としてFlashを大きく使いたがる分野というものは確かに存在する。日本企業である。


昔からこの面で悪評が高かったのは例えばSonyのサイトだ。今もかなりFlash率が高いが、昔はこんなものではすまなかった。今よりも回線が細かった時代にトップページ丸ごとFlashなんてことを平気でやっていた。しかもSkipもなければテキスト版も無いという凶悪なページがごろごろ。当時、Linux端末でw3mを使っていたりすると正に手も足も出ないという状態になって、腹が立つ前に笑ってしまうほどだった。


でも、まあ、それもこれもインターネットの「双方向性」とやらのためであった。「双方向性」とは派手なインターフェースのことであると、ちょいと勘違いしてしまった時代は確かにあったのだ。しかし、そこから考えれば今は随分マシになった。随分マシになって、最後に残った尻尾みたいなものが、湯川さんがやり玉に挙げておられるausoftbankのページである。auの新モデルのページなんかは確かにひどいが、発売中の機種のカタログページなどは、せいぜい商品写真にFlashが使われている程度で、可愛いものだ。


湯川さんが主張されていることは間違ってはいない。ただ、それはもうここ10年近くに渡って試行錯誤を繰り返し、文句を言い、悪評を聞かされ、妥協の末にたどって来た道ですということだ。「auのケータイ探検隊のサイト」はその流れの末の比較的新しい(しかしいささか遅れた)一例に過ぎないのである。みんな色々苦労してきたのはなんだったんだろうねと少し物悲しくなるくらいの。




で、その「auのケータイ探検隊のサイト」だが、え、そんなのあったのと思って見たところ、これはついこの前の9月の末にオープンしたばかりのサイトのようだ。検索でもろくにひっかからない。自分が知らなかったのも無理は無い。湯川さんは「僕はケータイを買い換える際に、このケータイ探検隊のサイトを非常に参考にしている。」と書いておられるが、わずかここ一月のサイトを「非常に参考にしている」って本当なんだろうか。


要するにこのサイトは、ImpressやITmediaの携帯ニュースサイトの新製品紹介記事をメーカー直営で始めましたということである。そう思ってみると開発者のインタビューなども特に珍しいものでもない。スペックや商品写真などは本来の公式サイトと比べてさえ特に情報量が多いわけでもない。softbankの動きが鈍いのは、元々ITmediaを持っているから…とも思うが、ITmediasoftbank色が露骨というわけではないので、この辺りはよく分からない。


元々、いわゆるIT系のニュースサイトというのは、ジャーナリズムというより広告じゃないのというような記事の多い世界なので、それがメーカー直営になったからといって、特に目新しさを感じないのは考えてみれば当然である。今後、こういうサイトはより増えて行くだろうが、その時に辛いのは、こうしたIT系のニュースサイトだろう。サイトとしてはジャーナリスティックな方へ倒していかないと存在価値がいよいよ無くなっていくからである。企業の製品記事を作る編集プロダクションとしては、今までのノウハウを十分に生かす商売が成り立つかもしれない。



さて、肝心のこうしたサイトがブランドイメージの向上に役立つか問題である。


ここ数年Flashはむしろ目立たなくなってきたわけだが、それで各企業のブランドイメージが向上したかというと、実に微妙としか言いようが無い。昔と比べればSonyのWebサイトは大変見通しが良くなったが、Sonyのブランドイメージは向上しただろうか?うーん。


では、開発者のインタビューのようなコンテンツは?これも正直微妙である。開発者のインタビューで良い例で思い浮かぶのは、iPodの開発までの話とか、任天堂の宮本氏のインタビューなどだろうか。逆に悲惨だったのは、また例に挙げて申し訳ないが、SonyWalkman Aシリーズのそれだった。単純な話、成功した製品の開発秘話は聞いていて面白いし、ためになるが、失敗したものを妙に自画自賛すれば失笑されるというごく当たり前のことである。


じゃあ、双方向性は?ということで、湯川さんは「auのケータイ探検隊のサイト」にコメント欄があることを評価しておられるが、やはりここでも思い浮かぶのはSonyWalkman Aシリーズのいわゆる「ヤラセブログ」の炎上事件である。誤解している人が多いような気がするが、あれは広告宣伝のためとはっきり銘打ったサイトでの出来事だったのだ。そしてコメント欄を閉じるのが遅れて歴史に残る炎上となった。携帯電話はこれまでにもリコールが度々起きている商品であり、割に燃えやすい物件だろう。なまじ公式サイトであるだけにいざ燃えた時の対処が難しい。放置するわけにもいかず、かといって批判的なコメントをばっさり削除するとそれはそれであれだ。


つまり、駄目とは言わないが、Web2.0的な双方向性にもそれなりのリスクがありますよというこれも珍しく無い話。湯川さんご自身が十二分にお分かりのことだと思うんだけれど。



というわけで、なんだかダラダラ書いてしまったけれど、勇躍、広告業界に専門を変えた湯川さんにして、いささか残念な感のあるエントリではあった。繰り返して言うが、湯川さんの主張は全く正しい。ただ、その次はどうしたらいいの?というのを読みたいなと無責任な読者は思うのである。


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