だから、変に記事タイトルを略すなと何度も何度も


はてなブックマークのコメントにも書いたことだが、改めて。


上記の記事タイトルの『「間違いだらけ……」の出版社』とは、先日民事再生法の適用を申請した草思社のことである。たまたま時間的に近接していたこともあり、私は一瞬「新風舍」のことかと思った。「間違いだらけの出版社」と読んで新風舍をイメージしたのだ。実際にはこれは「間違いだらけのクルマ選び」というベストセラーを出した草思社だったわけだ。


で、何故そもそも『「間違いだらけのクルマ選び」の出版社』と書かず、『「間違いだらけ……」の出版社』と書くのか。大した文字数の節約になるわけではなく、全体の文字数もさほど大きくなく、そもそもオーマイニュースはネット媒体なので、「見出しが印刷できる範囲」を気にする必要も無い。「草思社が倒産した理由」ではピンと来ない読者もいるだろうというので代表的な書名を挙げたというのであれば、書名を省略することでその効果は激減している。「間違いだらけのクルマ選び」はもうずいぶん昔の本なのだ。最近はむしろ「声に出して読みたい日本語」の方が有名だろう。なぜ『「声に出して……」の出版社』ではいけなかったのか。


となれば、これは草思社=「間違いだらけの出版社」というイメージを与えるための悪意ある省略だと考えられても仕方が無いであろう。記事の内容を見る限り、必ずしも草思社の「間違い」を指摘するわけでもなく、むしろ最近の出版事情を紹介して同情的でさえある。読者を釣るための見出しのトリックは認めないではないが、それは内容を読んで、なるほどそういうことかと納得させられなければ、芸として成立しない。これでは単に釣っただけ、あるいは単に無神経なだけである。


新聞の見出しのおかしな省略問題については、かつて一度扱ったことがある。


この時に挙げた例は、しかし、単に社名という固有名詞を変に略したというだけであって、特に恣意を感じるものではなかった。そういう意味では今回の方が悪質だと言えるだろう。



さらに見出しについて述べておくと、草思社民事再生法の適用を申請はしたが、これを「倒産」とすることにも、慣用的にはありだとしても「報道機関」の表記としては疑問を感じる。以下の検索結果を見れば、主要なメディアが「倒産」という言葉をほとんど使っていないことが分かるだろう。


これが市民記者の書いた記事だから、という言い訳だけは勘弁して欲しい。記事タイトルのおかしな省略は主要なメディアと共通する悪弊であり、「倒産」と「民事再生」の違いに鈍感なところは主要なメディアと共通しない。既存メディアの悪弊を廃し、クオリティは同等のものを目指すつもりが無ければ、オーマイニュースのようなメディアに存在する価値など無いのだ。そして、それを担保するのは——何度も言っていることだが——市民記者ではなく編集部である。タイトルに釣られて久しぶりにまともにオーマイニュースの記事を読んだが、あいかわらずろくな仕事をしていないなというのが感想である。



ついでに記事本文についても指摘しておこう。記事中では、正体不明の「出版関係者」が登場し、そのコメントを直接話法で紹介している。最初のものは出版業界の構造的な不況状況を説明するものであり、これはいいだろう。問題は記事末尾のものである。

「(略)ひょっとするとこの倒産情報によって全国の書店から一気に返品が来ることを恐れて、いかにも音羽講談社グループ)が救援先であるかのように文京区に移転したのでは、と勘ぐってしまいたくなる」


「平気でうそをつく人たち」(96年・M・スコット・ペック著)をヒットさせた版元だからといって、この期におよんで虚偽申請はないと思うが……?


「出版関係者」がこのようなコメントを述べたこと自体は事実かもしれない。だが、ここで「勘ぐって」いること、それを受けて否定的な体裁を取りながら、実質的にほのめかしていることについて、そうした投げかけをするに値する程度の裏を取る努力を少しでもしたのだろうか?していなければ論外だし、しているのならその根拠を示すべきではないか?


経営的に行き詰まりつつある企業が新社屋を建設しその直後に倒産したという状況ならともかく、草思社の行ったのはオフィスの移転に過ぎない。苦しい経営の中でオフィス家賃の負担を減らすために安いところへ移転したのであれば、全く合理的なことなのだが、その事情を少しでも調べただろうか。以前と今の事務所の住所、広さ、家賃の相場、こうしたことを調べることは大した手間では無いはずだ。その上でこうしたほのめかしを行うに足ると判断したのなら、それはよろしい。だが、それならそうした判断材料を提示すべきである。


市民記者に対してこうした指導または代行を行うこともやはり編集部の仕事のはずではないか。




相変わらずオーマイニュースにはトラックバック機能もなく、市民記者になるつもりも無いので直接コメントすることもできない。気の毒だとは思うが、この記事は中台記者にトラックバックを…と思ったら知らぬ間にはてなから退会されているようだ。オーマイニュースも検索してみたが、昨年の春を最後に署名記事も無い。うーむ。中台氏は元気にしているのだろうか。


(追記:と思ったら、別のところでブログを書かれているのを発見した。どうやら既にオーマイニュースを退社されたようだ。あらら。)


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