いのち


もうけっこう前の話だけれど、ある日テレビをつけるとその当時の首相が映った。外遊に行って、つまり国外で、記者会見をしているようだった。と思ったが、それは記者会見というよりは外遊による首脳会談後のある種のコミュニケを述べている光景だった。


それが何の話題だったのか把握する間もなく、彼はその外遊におけるトピックについて「自分の政治生命を賭けて」コミットするとはっきり述べていた。


私はあまり政治家の言に愕然としないタイプだと思うのだが、その時は別だった。トップになる前の政治家が「政治生命を賭ける」と言うのは、市場のおっさんが「安いよ安いよ」と呼びかける口上と同じくらいの価値でしかないが、トップに立っている政治家がそう言うのは、横綱が「来場所は勝ち越したい」と言ってしまうようなもので、そのコミットしたトピックの成否に関わらず致命的である。しかもそれを外遊先で真面目な顔で言っているのだから、もう無茶苦茶だと思った。こんなことあるのかよと私はテレビに向かって呟いていた。


とはいえ、そのこと自体は特に騒がれることなく、しかし結局それからさほど間がなくして、彼はその職を辞めた。私はもちろんそれで彼の政治生命は終わったと納得していたのだが、どうもそういうわけでもないようで、この国の政治というのはほんとに怪奇というかゆるゆるである。


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