ウロボロス

【問い5】

 太陽系の中心から東に約39.5天文単位離れた村で5日、矮小惑星を丸飲みした大きなニシキヘビが宇宙空間に現れた。

 現地紙によると、体長Xメートルのこのヘビは、お腹が膨らみ過ぎて動けなくなっており、消防隊員らによって簡単に捕獲されたという。


Xを求めよ。

【答え】
太陽から約39.5天文単位離れた位置にある矮小惑星で代表的と言えるのは冥王星である。そこで、この丸飲みされた矮小惑星冥王星と仮定する。

冥王星の諸元は以下のとおりである。

赤道面での直径 2,320 km
質量 1.290×10の22乗 kg
平均密度 2.05 g/cm³

先日の関係式に従う場合、冥王星を命がけでなんとか丸飲みできる蛇の体長(X)は以下のように求められる。ただし、冥王星の平均密度が2.05 g/cm³と羊のほぼ2倍であることを考慮に入れる。

【質量比】冥王星:羊=1.290×10の22乗/2 kg:37kg=1.743×10の20乗:1
【縮尺比】冥王星:羊=1.743×10の20乗の3乗根:1=5,586,236:1
よって、X=5,586,236×6m=33,517km


しかし、この立論には大きな欠陥がある。すなわち、冥王星と羊を同じ容姿として仮定していることである。象や鯨でも無理目であったが、冥王星は論外であろう。羊は球と比べれば細長いために飲み込みやすいと考えられるからだ。

そこで蛇が獲物を丸飲みするにあたって致命的な要因をその獲物の最大直径であると再仮定する。

羊の胴回りを知る手段が身近に無いので、体重50kg前後の人間の女性を例に取る。体重は羊の平均値(37kg)より重いが、羊に比べて手足が重いと考えられるので、胴体部分のサイズにさして差は無いであろう。すると、羊の胴回りを85cm程度と仮定することができる。これを真円とみなすと、直径にして27cmとなる。

従って、
【直径比】冥王星:羊=2,320,000m:0.27m=8,592,592:1
よって、X=8,592,592×6m=51,555km

結果として、約5万kmを超える体長の蛇に遭遇した冥王星は全力で軌道を変える努力をすべきである。なお、こうしたニシキヘビはいきなり獲物をいきなり丸飲みするのではなく、まずその長大な体で獲物を締め上げて、殺すなり意識を失わせるなりする。地球の赤道周長は約4万kmであるので、飲み込まれる怖れは無いにせよ、締め付けることは可能である。従って、このような蛇に我が地球が遭遇した場合、やはり全力で軌道を変える努力をすべきである。あるいは月を犠牲にする。



だが、問題はむしろここからである。問題文中の記事後半に注目すると、この5万kmの蛇は「消防隊員らによって簡単に捕獲された」という。この消防隊員はどこから来たのか。

既に冥王星が丸飲みされている以上、この消防隊員はカロンの職員であったと考えざるを得ない。そこで捕獲にあたって5万kmの蛇の全長に渡って、10mに1人ずつ消防隊員を派遣したとすると、その動員数は500万人である。カロンには500万もの消防隊員がいるのだ。

ここで横浜市を例にとると、他市町村の消防局に相当する横浜市の安全管理局の職員は約3400名である。横浜市の人口は360万人程度であるから、おおよそ横浜市民の1000人に1人は消防隊員であるとみなすことができる。これをカロンに援用すると、カロンの全人口は約50億人となる。

カロンの直径は1,186kmであるから、表面積は約442万平方kmである。これはインドよりも大きく、オーストラリアの半分強である。ここに50億のカロン人が居住しているとすると、その人口密度は1平方km当たり1,131人であり、地球上でこれに匹敵する国家は事実上の都市国家または小さな島国しかない

すなわちカロン人口爆発に相当悩んでいることが想像でき、しかも兄弟星である冥王星を失って、さらに土地問題に危機感を抱いているはずである。そのうえカロン人は宇宙空間で5万kmの蛇に対処するだけの行動力をも保有しているのである。我々地球は5万kmの蛇よりもむしろカロン人に対して備えるべきである。


……と思ったが、カロン人はその蛇の上に暮らせばよいと考えるのではないか。寒いから腐らないし。