幻の50万ポンド札を追え


変なニュースがあった。

英国で実際には存在しない50万ポンド(約1億1600万円)札を偽造し、中央銀行であるイングランド銀行に引き取らせて計280億ポンド(約6兆5000万円)をだまし取ろうとした事件が未遂に終わっていたことが23日分かった。


実際に存在しない高額紙幣を大量に偽造し、それを発行元である中央銀行に引き取らせようとしたというのだから、無茶苦茶である。本気なのかネタなのか分からない。



そういえば、フィリップ・マーロウは5,000ドル紙幣を持っていたことがあったな、と思った。「長いお別れ」だったか。5,000ドルと言えば、今のレートでも50万円を超える。産経の見出し風にいうと50万円札である。そしてこれは偽札ではない。マーロウは第二次大戦の前後の物語だから、当時の価値にすればさらに価値は上がる。たしかマーロウの日給が経費抜きで25ドルだったか。いつも仕事があるわけでもない私立探偵の日給だから、一般的にはこれでも高額なはずである。


今回の偽札50万ポンド紙幣は額面の数字だけ見ても更に100倍。アホか。そんなもの存在する訳が…

  • The $500 bill featured a portrait of William McKinley
  • The $1,000 bill featured a portrait of Grover Cleveland
  • The $5,000 bill featured a portrait of James Madison
  • The $10,000 bill featured a portrait of Salmon P. Chase
  • The $100,000 bill featured a portrait of Woodrow Wilson

  • なんと。アメリカには10万ドル札というのが存在するようだ。1万ドル札までのものは基本的に銀行間の決済用とはいえ、一般にも流通していた時期があり、10万ドル札は政府間取引に使用されていたと。もっとも既に流通は停止されている。小切手やクレジットカードによる決済の多い現在のアメリカの市中では、そもそも50ドル札や100ドル札さえあまり流通していないようだ。



    アメリカでこれなら、もしかしたらイギリスも…

  • £1,000,000


  • 50万ポンド札が無ければ、100万ポンド札を使えばいいじゃない。(エリザベス)



    さすがに市中流通はしていないようだ。

    Most of the bank notes issued by the banks in Scotland and Northern Ireland are required to be backed pound for pound by Bank of England notes. Due to the large number of notes issued by these banks it would be cumbersome and wasteful to hold Bank of England notes in the standard denominations. Special one million pound notes are used for this purpose.


    イギリスで紙幣を発行できる銀行はイングランド銀行だけではなく、スコットランド銀行アイルランド銀行なども歴史的な理由で認められている。さすが「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」。とはいえ、それぞれがてんでばらばらに紙幣を発行していては、通貨政策も何も滅茶苦茶になってしまうために制限をつける必要がある。その方法として、イングランド銀行以外の発券銀行は、発行する紙幣とほぼ同額の預金をイングランド銀行に積む必要がある。そこで使われているのが100万ポンド札というわけだ。



    というところで、改めて産経の記事を見ると気になる文章が。

    犯行グループは共産党政権が成立する前から続く中国のある一族の代理人と名乗り、紙幣の持ち主は100歳を超えて高齢化しているとして、早急な取引を求めたという。


    辛亥革命の直前、大英帝国は衰亡著しい清帝国に見切りをつけ、自らの傀儡となる政権を樹立することを画策した。そのための工作資金として持ち込まれた「存在しないはずの」50万ポンド紙幣が歴史の闇から今蘇る…みたいなバックストーリーを考えるとなかなか楽しい。ゴルゴ13ルパン三世のシナリオになりそうだ。


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