メロメロ八つぁん


子供の頃、祖父と同居していたこともあって時代劇をよく見ていた。多少偏りがあって、NHKとTBSのものを見ることがほとんどだった。当然、月曜8時の水戸黄門大岡越前枠は基本であり、本放送どころか夕方の再放送まで見ていた。だからそれぞれの第一シリーズとかまで見ている。


祖父が亡くなり、日常的に時代劇を見ることもなくなった。水戸黄門に対するイメージは東野英治郎で固定され、西村晃佐野浅夫もニセ黄門様役としての姿しか知らない。ていうか、なんで助さんが黄門様になっているのか、意味が分からない。


もう何年も前になるが、私は奇妙なことに気がついた。水戸黄門は極めて強固なフォーマットでできたプログラムであり、それは番組終了間際の印籠のシーンに象徴されている。ところがそのフォーマットにいつの間にか「由美かおるの入浴シーン」が組み込まれたというのだ。


え、ちょっと待って。たしかに時代劇で由美かおるを見た記憶はなんとなくあるが、そんなシーン見たことないよ。だって、あれから十年じゃきかないよ。そりゃ、「永遠に美しく」の薬飲んじゃった人のように時間が止まってる人ではあるけれど。しかもそれが話題ってどんだけ…。


と思っていたら、どうやら今シリーズは磯山さやかがレギュラーで出演しているらしい。かなり深刻な事情があって黄門様一行と一緒に旅をしているはずなのに日頃はどう見てもそんなこと忘れているとしか思えない娘役なのか、それとも由美かおるの後を襲った女忍者なのか、役どころは知らないけれど。



えーと、それで、



最近の入浴シーンはどうなっていますか?



いや、磯山さやかの入浴シーンが毎週あるなら、久方ぶりに時代劇を見るのもやぶさかではない。というか見る録る残す。まさか由美かおると一緒に旅をしているのに二人で風呂に入らないというのもシナリオ的に不自然だろう。



れいによって路銀をなくし、黄門一行ははたごで冷たく扱われる。格さんと助さんは廊下の雑巾がけをさせられ、八兵衛は風呂炊きである。ぶうぶう文句を言いながら竹筒を吹いて火を煽っている八兵衛の耳に楽しげな女性の声が聞こえる。ふと顔を見上げると、格子の入った窓からは湯気が流れている。湯を浴びて水のはねる音。八兵衛は首を伸ばし、生唾を飲み込んでのどがうねる。急いで辺りを見回すとそこには薪の束が。八兵衛は慌ててそれを窓の下に置き、その上に乗って窓枠に指をかけ、鼻の下を伸ばして窓を覗く…。


次のカットはもちろん悲鳴と、お湯を浴びせられて盛大にすっ転ぶ八兵衛の姿である。しかし、八兵衛は一瞬なりとも天国を見たらしく、ニヤニヤしながら助さんのところに行って、怒鳴られ別の仕事を言いつけられるのだ。身分社会は厳しい。


そして風呂場の外のカットに戻り、湯気の流れる窓から、磯山さやかの鼻歌が聞こえて来るのである。


メロメロ八つぁん、メロメロ八つぁん、仕事にはげみましょう♪



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