繋がらなかったもの


iTunes8が発表され、新機能として「Genius」が搭載された。それを見ていてSonyCONNECT Playerのことを思い出した。それについて書いておこう。


CONNECT Playerは2005年9月に発売されたWalkmanの新シリーズに添付された楽曲管理ソフトである。手っ取り早く言えばiPodに対するiTunesだ。もともとWalkmanにはSonicStageという同様のソフトがあったのだが、これの後継という位置づけだった。


しかし、CONNECT Playerは翌年の6月にはSonicStageCPへの統合という形をとって姿を消す。後継ソフトでありながら、先達のソフトに吸収されるというあまり例を見ない失敗に終わった。


その原因は何かといえば、端的には完成度が低すぎたということになる。


CONNECT PlayerWalkmanの発売の数日前から公開されていた。それをダウンロードして使いはじめた人たち―その多くは従来のWalkmanユーザーであり、買い替えを考慮していた人たちでもあった―からの使用レポートが上がっていたが、それは悲鳴に近いものだった。


とにかく遅い、膨大なメモリを占有するというのが一番の問題だった。FSKと呼ばれる一種のJavaScriptエンジンの性能が低過ぎることが原因ではないかという予想がなされ、最終的にある程度裏付けられることになる。


だが、いくらJavaScriptエンジンといってもメモリを食い過ぎ、負荷が高すぎた。CONNECT Playerはいったい何をしていたのだろうか。


その一つの理由として考えられるのがCONNECT Playerの目玉機能だった「アーティストリンク」だ。CONNECT Playerに登録された楽曲から似た雰囲気を持つ曲を見つけ出し、それを関連づけてシャッフル演奏したり、Moraからのお薦曲として紹介し販売につなげるという機能である。


これのバックエンドになっていたのがGracenote社のMusicIDというサービスだった。楽曲の波形データから、それがどの曲であるかを判別し、構築済みのデータベースから関連づけのためのデータを取り寄せる。そのために楽曲データを丸まる送信する訳にもいかないので、楽曲の特徴的な部分をフィンガープリントとして取り出す必要がある。そのための処理にリソースを食われすぎたのではないかという予想だ。


この予想が正しかったかどうかはさておき、この「アーティストリンク」という機能が「Genius」と非常によく似た考え方を持っていることは言うまでもないだろう。あの時のSonyが少なくともコンセプトの上では正しかったのか、それともAppleSonyと同じ間違いを犯そうとしているのかはまだ分からないが。


だが、「Genius」と「アーティストリンク」の簡単な違いを指摘することはできる。「アーティストリンク」が波形データの送信を必要としたのに対し、「Genius」はiTunesに蓄積されたメタデータだけを送信するようだ。これは単純にユーザー側の負荷が少なくてすむということである。そして、ユーザー負荷が小さければ、結果的に「使えない機能」だったとしても大した問題にならないだろう。もしかしたら、「アーティストリンク」がCONNECT Playerにとって致命的だったかもしれないのとは対照的に。


では何故CONNECT Playerメタデータだけの送信で済まさなかったのか。当時既にCDDBは整備されていたからメタデータをちゃんと持った楽曲データはそれなりにあったと思えるのにだ。私は非ネットワークな家電に対応することを念頭に置いていたからではないかと考えるが、これはもう当てずっぽである。



Sonyが既に失敗した機能をAppleが成功させることができるとしたら、そこにはなにがしかの教訓が現れるように思う。



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