馬泥棒を追え


以前にOblivion用のクエストMODを作ってみたことがある。


馬泥棒がいるのでそれをなんとかしろというのがクエストの目的である。そのために夜中に駐馬場に張り込んで馬泥棒が馬を盗むのを目撃して追跡し、アジトを探し当てろと指令を出す。基本的に栗毛しかいないところに囮の白馬を置き、見張り場所として指定されているのは、そのそばの建物の陰、茂み越しに白馬を見張る。夜中になると怪しげな人物が現れ、白馬に近づく…。


しかし、馬泥棒は白馬のそばを素通りしてしまう。プレーヤーの所有馬が近くにいる場合、馬泥棒はそっちを盗むように設定されているのだ。プレーヤーがあれと思った時には馬泥棒はプレーヤーの愛馬にまたがり、一散に駆け出している。プレーヤーは自分の愛馬を盗んだ奴を自分の足で追跡する羽目になる。自分の所有馬以外に乗馬すると自分まで泥棒扱いになってしまうからだ。


作り手としてのこのクエストの目的は、自分の愛馬を盗まれた瞬間のプレーヤーのあっという顔を想像する楽しみに尽きる。


慌てて茂みを飛び出して駆け出し、街道を逃げる馬泥棒を追いかける。もちろん馬が走るほうが速いので、馬泥棒はみるみる遠くなる。見晴らしがきくので遠くで馬泥棒が橋を渡っていくのまで見える。街道にはいつも通り追いはぎがいるが、馬泥棒は楽々とそいつらを振り切る。追いはぎは後から来るプレーヤーに目的を変更する。プレーヤーは馬泥棒を追いかけながら、追いはぎに追われる羽目にもなる。


おまけ的ではあるが、このあたりも楽しみである。絶望的な状況というわけではないが、プレーヤーの頭に血が上る瞬間を作れれば勝ちだ。



たったこれだけのクエストを作るのにえらい苦労をした。Oblivionは「自由度が高い」ことで有名だが、これがちょっとした演出をするのにも障害になる。設定やスクリプトを作るのに苦労するのはこちらのスキルが足りないからだから仕方ないとして、テストプレイをすると思わぬことが起きてなかなか思い描いている状況にならない。


馬泥棒を待っているが、なかなかやってこない。おかしいなと思って見に行くと、巡回のガード兵に見つかって追い回されている。Oblivionのガード兵は超能力者として有名なので、なにもしていないのに犯罪者を見分けてしまうからだ。


ガード兵に犯罪者と思われない設定に変えて、無事、自分の愛馬を盗ませることに成功する。愛馬に乗った泥棒は駐馬場を脱走しようとして、閉まっている柵のゲートでひっかかってしまう。自分でゲートを開けるように指示を出すと、馬泥棒は悠々と馬を降りてゲートを開けた。これではプレーヤーが現行犯逮捕できてしまう。


仕方ないのでゲートを自動ドアに変更すると馬泥棒はさっそうと街道に走り出した。追いかけていくと追いはぎが現れ、馬泥棒はまたもや馬を降りて戦闘を始めてしまう。もともと戦闘を想定していないキャラクターなので、そこで殺されてしまう始末。戦わないでとにかく逃げろと指示を出すと、アジトに帰ることを忘れてひたすら明後日の方向へ逃げ去り、森の中で途方にくれている。


なんとか追いはぎと戦わずアジトに向かうよう調整すると、馬泥棒はようやくアジトにたどり着く。プレーヤーもアジトを探し当て、そこで一味と戦闘になるはずなのだが、なぜか一味は現れず近くで悲鳴が聞こえる。見に行くと野良のモンスターを見つけた馬泥棒一味がよせばいいのに襲いかかっている。


野良のモンスターが出現しないようにして、ようやく一味との戦闘開始。ここでクエストの終了条件を2つ設定し、一つは一味を皆殺しにするエンド、もう一つは一味の頭目と話しあいで解決するエンドにする。頭目が、俺たちは泥棒だが殺し合いをするほどじゃないとプレーヤーに話し掛けてきて、剣をおさめる。ところが他の連中は頭に血がのぼっていて戦闘をやめない。結局皆殺しをする羽目に…



Oblivionは「自由度が高い」ことで有名だが、よくよく見ていくと複雑なイベント連鎖が起きるのはダンジョンや建物の中など、状況を限定できる場所がほとんどである。たまに街なかで暗殺するミッションなんかがあると、罪も無い市民が巻き込まれてガードの流れ矢が当たって激怒して参戦し、気がつくと教会の聖職者までが殺しあう修羅場になったりする。公式のクエストでもこの有様。


美しいOblivionの風景を背景にしたクエストをいくつか考えていたのだが、フィールドは不確定要素が多すぎて、あまりのデバッグ作業の煩雑さに心が折れた。作っている時は楽しいのだが、いつまでたっても完成しないのだ。



さて、なんの話をしたかったんだっけ。そうそう。FF13が発売されたそうで、シナリオだけでなくマップまで一本道になってしまっているらしい。FFは7以降はやっていないのでよく分からないけれど、演出に凝れば凝るほど状況は限定したくなるよなあと件のようなことを思い出したのだった。イベントの決めのシーンの構図にまでこだわるのであれば、プレーヤーの立ち位置まで限定しなければならない。啖呵を切っている敵キャラの背後でプレーヤーが池にはまっていては困るのである。一本道という究極のマップを選択したFF13は究極の演出を目指したのだろう。


でもね。フィールドでクエスト作るの楽しかったよ。作り手に驚きがあるものは、遊ぶ方にも驚きがあると信じたい。


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