Macの盲腸


Macの中にはPRAMという部品がある。内蔵時計の時刻や起動するディスクの設定などを保持している。PCだとCMOSにあたるんだと思う。


RAMという名がついていることから想像できるように通電していないと内容を維持できない。そのためバックアップ用の電池がつながっている。


電池である以上、いつかは消耗する。耐用年数は5年程度ということで、こういうものはたいてい設計寿命より長生きすることが多いので、製品寿命よりも長くなることも多いだろう。しかし、何事にも例外はある。


こいつが凶悪なのはこの電池が死ぬとそのMacは起動しなくなるということだ。起動しないというか、そもそも電源が入らない。


というわけで、我が愛機であるMacBook( late 2006 )の電源が入らなくなった。以前から一度電源を落とすと、その後なかなか電源が入らない症状は出ていた。しばらくじたばたしているとふいと起動してその後はなんの問題も無い。そもそもスリープさせることがほとんどで、完全に電源を落とすことは滅多にない。が、今度ばかりはどれだけじたばたしても起動しない。


実はPRAMの電池のことは当初から頭にあったのだが無視していた。型名からも分かる通り購入してから4年に満たないし、そもそもPRAMバッテリなんて昔の仕様で最近のMacにはもう無いだろうと思っていたのだ。私のMacについての知識の大半は10年以上前のものである。それに以前分解した時に電池らしきパーツが見当たらないことも確認してある。


しかし、さにあらず。私の愛機のPRAMにもしっかりバッテリがつながっていた。このMacの盲腸とも言うべき機構が無くなったのはつい最近のことのようだ。


調べてみると案の定、この電池が完全に死ぬと電源が入らなくなる。現在の症状と同じだ。交換パーツを手に入れるためには海外のサイトから取り寄せるしかなさそうだ。そして、なんと、死んだ電池を外すととりあえず起動するのだという。まさに盲腸。


iFixItというその筋では有名な「ばらし」サイトを参考に分解した。PRAM電池は私がまだ見たことの無かった部分、ロジックボードの裏側にあった。途中まで分解したのだが、あまりのコネクタの数に挫折して組み立て直した。電源は相変わらず入らないが、もうこれが故障によるものか分解/組み立ての失敗によるものか分からなくなった。もとより保証期間は切れているので気にしなくていい。


iPod touchの小さな画面でAppleStoreを表示してため息をつく。最近、そろそろ買い替え時期かと思い既に現製品の調べはついている。次買うとすれば13インチのMacBookProなのだが、たぶん次のモデルで内部仕様が随分変わるだろう。その結果を待っていたのだ。あと数ヶ月もってくれよと祈っていたが、ここで妥協するしか無いのだろうか。


今買うのなら、今ここにあるMacbookはお役御免になる。電源が入ればバックアップ端末として余生を過ごさせるのだが、電源が入らないのではさすがに廃棄するしかない。どうせ廃棄するなら分解に失敗しても組み立てに失敗しても結果は同じだ。よし。もう一度分解してみよう。


この手の作業をするとき、私はいつも自分に言い聞かせる。これはもともとマレーシアだか台湾だかの工場で、現地のおばちゃんが組み立てたものだ。おばちゃん達にできるものならお前にもできる。


結果として、今私は再び電源の入ったMacbookでこの文章を書いている。手元には摘出された内臓電池が転がっている。


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